東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)120号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1 請求の原因四1、3について
(一) 前記当事者間に争いのない請求の原因二の本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明1及び本願発明2のいずれの方法においても、熱風乾燥に付される含水ゲル状重合物は、その小塊が前後又は左右に付着してなる集積体を形成していることが明らかである。
そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、この集積体の形成について、本願明細書は次のとおり説明していることが認められる。すなわち、まず本願発明1の方法による場合につき、「このゲルは相互付着性が大きいから、これらゲルの小塊は多孔板の孔を押出されて行くうちに相互に付着して、多孔板を通過し終つたときには、これら小塊が前後に付着してなる紐状の集積体が形成される。多孔板の孔間隔は小さいことがふつうであるから、隣り合つた孔から出た紐状の集積体は軽るく相互に付着した状態(スダレ状)となるであろう(この発明でいう『紐状の集積体』という用語は、一旦形成された紐状の集積体がこのような二次的形状をなしている場合をも包含するものとする)。……このようなゲルの紐状の集積体の形成は、ゲルを収容する加圧室と、多孔板と、ゲルを多孔板に押圧する押圧機構と、この多孔板の内側表面すなわち加圧室側表面に働く剪断力印加機構(この剪断力によつて、孔中に突出しているゲルを切断する)とを具えた任意の装置によつて実施することができる。」(同号証七欄三一行ないし八欄一二行)と説明し、次いで、本願発明2の方法による場合につき、「押出後に切断する場合は、形成される小塊は薄片(多孔板の孔の断面が円形であれば円板状)となるが、相互付着性が大きいところからこれら小塊は実質的左右に付着した板状の集積体となる。多孔板外表面での切断は単刃ないし多刃カツターによつて連続的に行なわれるのがふつうであるから、この集積体も軽るく相互に付着した状態となる(この発明でいう『集積体』という用語は、一旦形成された紐状の集積体がこのような二次的形状をなしている場合をも包含するものとする)。……このような集積体の形成は、切断機構が多孔板外部に設けられているという点を除けば、前記の装置に準じて設計製作した装置によつて実施することができる。」(同八欄二八ないし四四行)と説明している。
以上の説明によれば、右集積体の形成は、専ら含水ゲル状重合物の有する相互付着性すなわちその粘度によることが明らかである。したがつて、もしその粘度が低く、小塊化後押出された(本願発明1の場合)又は押出後小塊化された(本願発明2の場合)含水ゲル重合物が右の集積体を形成しないとすれば、このような粘度の低い含水ゲル重合物は本願発明の対象とする含水ゲル重合物に該当しないといわなければならない。
そうとすれば、本願発明の特許請求の範囲第一、二項の各(1)の記載は、本願発明における第一工程である集積体の形成工程を示すとともに、本願発明の対象とする含水ゲル状重合体の粘度をも規定するものと理解され、その各(2)の記載と相まつて、本願発明において、第二工程の熱風乾燥工程に付される被乾燥物が右の集積体であることを明らかにしているものと認められる。
被告は本願発明の含水ゲル重合物についてその粘度は限定されていないと主張するが、右認定の事実に照らし、その主張は採用できない。
(二) 一方、第一引用例に審決がその理由の要点2で認定する粘着性含水物の乾燥方式が記載されていることは、当事者間に争いがない。この乾燥方式において、熱風乾燥に付される被乾燥物が、審決の認定するとおり、「粘着性の強い含水物(粘着物)に乾燥生成物の一部をフイードバツクして得られた混練物を混練ケーク成形機の多孔板の内側に設けられたカツターにより切断し、多孔板を通して押出し、一定細径、一定長の粒子状に成形された被乾燥ケーク粒子(小塊)」であることは明らかである。そして、成立に争いのない甲第三号証により認められる第一引用例の「該ケークは熱風乾燥に好適な大きさ、形状なので、乾燥筒1内に送られ、前進反転される間に短時間に乾燥され、互に附着して塊状化しない。また被乾燥粒子ケーク内に一度乾燥された細粒子が混合されて居るので、水分は表面および内部より均等に拡散蒸発するから乾燥効果が極めて優れている。」(同号証一頁右欄一八ないし二四行)との記載によれば、被乾燥ケーク粒子は粒子状(小塊)の形状のまま熱風乾燥に付されるものであつて、本願発明におけるように右ケーク粒子が相互に付着した集積体として乾燥に付されるものではないことが認められる。
審決は、第一引用例の方式においては、「乾燥生成物の一部をフイードバツクして原料粘着物に混練しているものの、これによつて粘着性が失われるものではなく、程度の差こそあれ粘着性を有するものであ」り、「その粘着性により、小塊は相互に付着し集積体を形成するもの」と認定しているが、前示認定の事実と前掲甲第三号証により認められる第一引用例中の「従来例えば鶏糞のような粘着性の強い含水物を乾燥する事は非常に困難であつた。……廻転乾燥機を用うる場合には乾燥筒の廻転によつて被乾燥物が大きさ不均等な大粒子あるいは塊状に成形され、あるいは乾燥筒内面に附着成層するので、それら内部の含有水分の蒸発が困難となり、均一な乾燥が行なわれず、結局長時間を要するので連続乾燥は不可能とされていた。本考案は上記の問題点を解決するもので」(同号証一頁一四ないし二二行)との記載によれば、第一引用例の乾燥方式において原料粘着物に乾燥生成物の一部をフイードバツクして混練するのは、これによつて原料粘着物の粘度を低下させ、この混練物を多孔板の内側に設けられたカツターにより切断し多孔板を通して押出して得られる小塊をして相互付着性のないものとするためであることが明らかである。同号証により第一引用例の記載をすべて検討しても、第一引用例の乾燥方式において小塊が相互に付着し集積体を形成するとの事実が開示されていると認めることはできない。
したがつて、審決の前示認定及び原告が請求の原因四3で指摘する「第一引用例の混練物が集積体となつて」との審決の認定は、いずれも第一引用例の記載内容を誤認したものといわなければならない。
2 請求の原因四2について
(一) 右1に認定したところによれば、第一引用例の乾燥方式においては、原料粘着物を短時間に能率的に連続乾燥するため、原料粘着物に乾燥生成物の一部をフイードバツクして混練した混練物から相互付着性を有しない粒子状の被乾燥ケーク粒子を形成させることをその技術思想の主眼としていることが認められる。すなわち、第一引用例には、本願発明のように熱風乾燥工程に付される被乾燥物をその原料である粘着物の有する付着性のためにその小塊が相互に付着して形成する集積体とする技術思想の開示はないといわなければならない。
(二) 一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、本願発明の対象とする含水ゲル重合物と一致する水溶性ポリマーの高粘度水溶液を対象とし、これを容易にそして速やかに乾燥する方法として、この高粘度水溶液をまず、本願発明における小塊化の手段と等しく「溶液をノズル板を通して圧出しそして出てくる紐状物を直接に板の後にある回転ナイフによつて短い切片に切断することによつて」(同号証二頁右欄八ないし一〇行)小粒子に粉砕し、次いで、この粘着性のある小粒子を水と実際上混合せずそしてポリマーを溶解しない有機液体中に入れることによつて粒子が相互に付着することを避け、そして、共沸蒸留によつて右粒子の水分を除去し、よつて粘着性のない容易に速やかに乾燥することのできる粒子を得る方法が開示されていることが認められる。
右事実によれば、本願発明の方法と第二引用例の方法とは、含水ゲル状重合物の乾燥方法として、その目的とするところは同じであつても、その目的を達成する手段において全く異なり、その技術思想を異にするものであることが明らかである。また、第一引用例の方法と第二引用例の方法を対比しても、その間にその技術思想を共通にするところはないことが明らかである。
(三) 以上のとおり、第一引用例には原料粘着物の小塊が相互に付着してなる集積体を形成させることの開示はなく、第二引用例には本願発明とその技術思想を全く異にする乾燥方法のみが開示されているのであるから、この各引用例の記載に基づいて、「第一引用例の混練物に代えて第二引用例の含水ゲル重合物を用いることは当業者が容易になしうることである。」ということができないことは明らかである。審決の右判断は誤りといわなければならない。
3 以上のとおりであるから、右の誤つた認定判断に基づく審決の結論もまた誤りというほかはなく、審決は違法として取消を免れない。
三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
1 次の工程の結合からなることを特徴とする、含水ゲル状重合物の乾燥法。
(1) 含水ゲル状重合物を多孔板に押圧し、その際孔中に突出した含水ゲル状重合物と多孔板内側に連なる含水ゲル状重合物とを多孔板の内側表面に働く剪断力によつて切断して孔中に含水ゲル状重合物の小塊を連続的に生成させて、孔中を通過したこの小塊が前後に付着してなる集積体を形成させる工程。
(2) この集積体を、剪断力印加条件下に熱風乾燥に付して、上記集積体を少なくとも相互付着性のない状態にまで乾燥された小塊に解砕する工程。
2 次の工程の結合からなることを特徴とする、含水ゲル状重合物の乾燥法。
(1) 含水ゲル状重合物を多孔板に押圧し、その際多孔板の外側に押出された含水ゲル状重合物を多孔板の外側表面に働く剪断力によつて切断して、この含水ゲル状重合物の小塊が実質的に左右に付着してなる集積体を形成させる工程。
(2) この集積体を、剪断力印加条件下に熱風乾燥に付して、上記集積体を少なくとも相互付着性のない状態にまで乾燥された小塊に解砕する工程。